
新橋はサラリーマンにとって
ハレの舞台のようなものです。
この日の僕は、
粋に飲みたい気分で、
美味しいものに
関しては妥協を許さない
才能が集まる
ブロードウエイのような
新橋の裏通りをズンズン進み、
時々伺う「なだ」という
お店を目指します。
ここは、何を食べても
美味しいお店ですが、
ちょっと贅沢気分の時に
行くお店です。
こんな時に僕は、
役作りをします。
粋な大人を演じるため
スタニスラフスキーの
メソッドで美味しい
つまみをちょいと食べながら
ストイックに飲む大人の男に
なりきるのです。
人は誰でも少なからず
何らかの役を
演じているものです。
会社では従順で仕事好きな
サラリーマン。
家庭では物分かりのいい
善良な夫。
酒場では違いのわかる
食通の大人。
社会で生き抜くためには
誰もが俳優にならざるを
得ないのです。
お通しでつないでいるうちに、
注文してあった
「なだ風冷奴」が
供されます。これが、
このお店に来る最大の
理由です。
このお店は、
お刺身が美味しく
「売り」になっていますが
僕はこれなのです。
写真ではよくわからない
かもしれませんが、
豆腐の上になめたけと
キュウリの千切りをのせ
そのうえに刻み海苔を
たっぷりかけただけの
ものですが、これが
うまいうまい。
料理というのはセンスだな
と思うのはこういう一瞬です。
普通にある材料で、普通では
考えられられない味を
生み出すのが
優秀な料理人なのです。
家で真似をしたら
十分に美味しいものが
できましたが、
ちょっと違うのです。
おそらくなめたけと
海苔の味の差なのだと
思うのですが、
このお店のは、
本当に美味しくて
僕は日本酒に合わせたく
なりますが、今日は
焼酎お湯割。
チビチビと急がず
慌てずやっていると、
「鰤の炙りポン酢」が
運ばれてきます。
これまたいける。
この季節にしては
脂の乗った鰤を
炙った香ばしさ。
うーん、イカンイカン、
役作りが台無しです。
食欲が暴れだしました。
キャベツとコンビーフ炒め、
茄子とピーマンの生姜焼きを
無意識にオーダーしています。
これがうまいのなんの。
もはや役作りもしないのに、
井之頭五郎が猛烈な食欲で
食べ始めるのです。
このとき思ったのです、
僕はまだまだ修行が足りない。
もっと食を楽しむために
もっといい役者にならなければと。
<お店情報>
東京都港区新橋2-10-9
新橋から徒歩5分
内幸町から徒歩2分
新橋駅から252m
営業時間[月〜金]17:30〜23:00
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